【コラム 今月の子供たち】富山から日本全国へ!出荷される座席シート vol.1 東海バス「グランリュクス」編

今回より新企画として、乗りものライター安藤昌季×天龍工業株式会社のコラボ特集記事を掲載します。
富山県の当社工場より毎日出荷されるシート製品の中から厳選し、その後の全国各地での活躍ぶりを追い求めて巣立ってゆく姿と成長をレポートします。
題して…【コラム 今月の子供たち】。是非ご覧ください!

乗りものライターの安藤 昌季と申します。初めまして。
鉄道、バス、船、飛行機など、乗りもの大好きな、乗りものライターの安藤 昌季と申します。その中でも特に座席が好きな“座席鉄”です。    
乗りものの印象を、外観に置く人も多いかと思いますが、実際に乗車したときに見えているのは「座席から眺めた風景」がほとんど。だからこそ、座席の良し悪しは乗りものの印象そのものとも言えるわけです。

今回、鉄道やバスの座席を数多く手掛ける天龍工業様から「東海バス様のハイグレード小型貸切観光バス『グランリュクス』を見てみませんか」とお誘い頂いたので、二つ返事で静岡県の伊豆半島・修善寺へと向かいました。

東海バスと言えば、ボンネットバス「伊豆の踊子号」に代表される、オレンジとクリーム色のバスという印象があります。でも、「グランリュクス」はハイグレードバスだけあって、全く違う雰囲気。プルシャンブル―(紺青色)にも緑系にも見える上品な車体色で、天城連山や伊豆半島周囲の海原をイメージされているのだとか。そして、吹き抜ける風が金色などで描かれる素敵な外観。ご担当者に伺うと「高級感を出すために、ガラスを塗料に混ぜ込んでいます」とのことで、近づくと夜空の星のように輝きます。

デザインは「社内で議論を重ね、自分たちで決めました。CGで内装が確認できるので、比較検討できました」とのことですが、著名工業デザイナーが手掛けた車両にも見劣りしない高級感を感じます。
側窓も遮光ガラスであり、外からは黒く見えて車内を覗きにくいけど、車内からは景色が見えるという、高級路線としてはよく考えられたもの。

プラグドアが開くと、ステップが降ります。段差に無理がなく、乗り降りしやすいステップです。
乗りものライターとして、床が気になり「この大理石調の床ですが、かさ上げされていませんか」と聞いたところ、「その通りです」とのご返答。走り出すと、走行音や振動が一般のマイクロバスより明らかに小さく、確かにハイグレードを感じさせるものです。

入口付近に特殊装備があることにも気づきます。「おしぼり入れ」と「貸し傘入れ」「冷蔵庫」です。急に雨が降っても、乗客分の傘が用意されているのは、高級路線の乗りものでもほとんど見られないサービスで、気配りに感動します。
「冷蔵庫は何に使うのですか」と尋ねると「お客様次第ですが、付帯サービスとして飲料を提供できるようにしています」とのこと  。

車内は通路を隔てて一人掛け座席が並ぶ、いわゆる1+1列配置で、バスとしてはこれ以上ない座席配列です。シックな濃いグレーの皮張り座席は、仕掛けだらけです。座席幅52cmは新幹線の最高級座席「グランクラス」と同等、幅5cmの肘掛け内部には、テーブルも収納されています。
かさ上げされた床のおかげで、窓の上下幅の中心に目線があるため、とても視界が広く見えるのも素晴らしい配慮と言えます。

座席背面には網袋、側壁にはドリンクホルダーと個別コンセント。さらにはフリーWi-Fiと、必要なものは全て備わる印象です。肝心の座席ですが、革張りだけど体が滑らず、頭の部分を枕がよく支えます。脚の重さはレッグレストとフットレストに分散するため、体重が一点にかかることがありません。座席メーカーの老舗・天龍工業が開発した座席だけあり、総じて新幹線グリーン車以上の座り心地と言えます。
ちなみにお客様の人数により、座席数を増やしたり、座席間隔を変更もできます。取材日では8人乗りでしたが、10人乗りにもできるそう。

乗車から10分以上が経ちましたが、豊富な付帯設備やインテリアの確認が終わらないほど、見どころを感じます。側窓の上は飾り布で覆われ、高級ホテルのようですが、これはデザインのこだわり部分。ちなみに、天井にはモニターが2台収納されており、観光案内や資料などを放映することもできます。
「グランリュクス」から見る伊豆半島は、富士山をはじめとする山々と海の景色が素晴らしく、このバスから高級感のある旅をするのは価値あるひと時と感じます。

最後に「どうしてハイグレードバスを実現しようと考えられたのですか」と伺うと「インバウンドも含めて富裕層のお客様が増えました。コロナ禍でも富裕層のお客様は殆ど減らなかったのです。伊豆半島は山の奥に見どころが多く、マイクロバスが適していたことから『グランリュクス』の開発につながりました」とのこと。
東海バスの社員でも「見たことがない車内空間」と感じたという「グランリュクス」。確かに日本国内でも有数に居心地がいい空間と感じました。

安藤 昌季/Masaki Ando
「乗りものニュース」「東洋経済オンライン」などで執筆中の座席鉄。著書は「鉄道のインテリア」(イカロスMOOK)、「日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き」(天夢人)など多数。